ソロル部屋
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25.[ナイ] 「我が許嫁と三人で食事をしたり、観劇をしたりもしたな。もしも彼女と結婚できていたら、今頃この上なく幸せだっただろう……きっとこんなに口うるさくも言われなかったしな」
戦争の暗い話題を避けようとして放ったグルッペンの軽口に、エーミールもオスマンも声をあげて笑う。トントンも笑顔を作ってみた。しかしその笑顔は誰が見ても偽物の表情だ。本当は笑い飛ばしたかった。きっと他人事なら上手く笑えただろうが、複雑な思いを抱えた今の心の状況ではそれも出来なかった。だから察しのいいオスマンに気付かれる前に、三人に背を向けて物理的に顔を隠した。
「なんだトン助、怒ったのか? お前本当に細かい性格だな、勿論冗談だぞ? 堅物もここまでくると難儀だな」
書類をまとめてマントを羽織るのを見て、グルッペンが茶化すように伺ってくる。乱れのない動きで帯刀し、靴の汚れを確認してから、完璧なフォームで軍仕込みの“回れ右”をしてやった。すこしたじろいだグルッペンと、バッチリ目が合う。そこで今日一番の笑顔を浮かべ、グルッペンを指さし彼の胸骨に指先をトンと当て、告げる。
「俺はね、生身なんです、アンタみたいに暇じゃないんですよ。じゃ、アンタのご親族に会ってきますんで、俺がいなくても大人しく過ごしててくださいね“フューラーお坊ちゃん”。夜には戻ります。昼飯は作ってありますんで。では」
早口でまくしたてるとブレのない動作で頭を下げ、カツカツと早足で足音が去っていく。その背中を見送るオスマンとエーミールは思わず顔を見合わせてから、同時にこの屋敷の当主を見やる。当の本人は胸元に手を当てて、ちょっと困った顔をして口元をひきつらせている。十秒ほどの沈黙が流れた後、オスマンがしみじみとした様子で、一言つぶやいた。
「うん、やっぱり百戦錬磨のグルッペン少将も、恐妻には勝てないんやねぇ……」 09/06 18:50 PC PC
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