ソロル部屋
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39.[あるのかもしれナイ] 「おかしぃよなぁ、こんなにええ子なんに。無駄吠えもせぇへんし……狼の血、そんなものに絆が負けてしまうんか」
日もとっぷり暮れた頃、ゾムは縁側にあぐらをかき、立て肘をつきながらぼやく。そんな元気のない主人を心配してか、その足の間にはイフリートが顔を見上げるようにお座りして、主人の言葉を待っている。その期待と生気に満ちた瞳はキラキラして、空に浮かぶ満月のような色をしている。鼻も黒々とつややかで体調管理も抜群だ。
「お前はええ子やもんな。お前の命の恩人であるひとらんが悲しむような事はせぇへんやろ。なのに解ってもらえへんねん。血が入っとるってだけやのにな」
ピスピスと鼻を鳴らし、ぺろりと舌で鼻を舐めとるイフリートの頭を、わしわしと撫でてやる。掌で包み込むように撫でると、頭蓋骨はずいぶん大きくガッシリとしており、並みの犬ではないことを物語っている。これからもっともっと大きくなるだろう。ゾムは軍用犬を知っているが、イフリートが成体になる頃には、身体能力は軍用犬のそれを易々と超えてしまうのではないかと感じているぐらいだ。だから尚更トントンの言い分に、言い返せずに言葉を飲みこんだ。
「さすがにお前を基地には連れて行けんしな……仕事やから、その間はここにいてもらわなアカンねん。ごめんな……」
主人の悲しみを敏感に察知したのか、イフリートが身を乗り出してゾムの頬や口元をぺろぺろと舐めた。
どこまでも暗い闇を進む。まるで突き動かされるように、走る、走る。1歩でも足を前へ、1歩でも彼に近く。ゾムは闇の中を光の矢の如く駆け抜ける。だが、行きつく先はいつも闇。
「どこやねん、なぁ」
周囲の音は、闇に飲み込まれて何も聞こえてはこない。
「おるんやろ、はよ姿を見せてや。何で、一人で行ってしもたん。一緒に長生きするって、約束したやん」
砂に足をとられ、一瞬体がよろめく。すぐに体勢を立て直し、走り続ける。
『ごめんな、時間もなくて、手作りなんやけど。お前に笑顔で過ごしてほしいから、願いを込めてんだ』
どこからか、懐かしすぎる声が響き、ゾムの視界が歪み始める。ボロボロと流れ落ちる悲壮な涙が、自分の意思によって止まる事はなく、それでも彼は足を止められなかった。 09/12 20:03 PC PC
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