夏の終わり
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「赤い翼、トントン。俺の元から、逃げ出し、裏切った……」 一人切りになり、テントの中の簡素なベッドへ横たわると、あの日の光景が、まるで今目の前で起こっている事のように思い出された。 猛烈な雨の中、部下であり絶大な信頼を置いていた腹心であったトントンから聞いた告白。それはタミアラを裏切り、ミヨイへ渡り仕官して、この泥沼化した戦争に終止符を打つという衝撃的なものであった。天地が不覚になる程ショックだった。トントンの手が、自分に向けて差し伸べられる。真っ白な頭でその手を、次いでトントンの濡れた黒髪から滴る水滴と、彼の諦めているような、それでも縋りつくような眼を見た。だが、家も、国も、許嫁も、決して手放す事の出来ぬものだ。固まった表情のまま剣を抜く、彼の目が哀し気に細められ、二、三歩ひいて、彼も剣を抜いた。 「ッ……どうしてだ、何故、俺を裏切ったんだ!」 毛布を握りしめ、憎しみでもなく哀しみでもない、やり切れぬ気持ちに大粒の涙が枯れることなく溢れ、口からは堪え切れぬ悲鳴のような慟哭が漏れ、ただ月だけがそれを見下ろしていた。 明け方、ミヨイクニの陣営内が俄かに騒がしくなった。 「狐だ! そっちに逃げたぞ!」 「師団参謀長、ご無事ですか!?」 陣内へ入り込んだ狐……スパイが、トントンが寝ている間に彼のテントへ直接忍び込み、眠っているところを襲おうとしたのだ。だがトントンは砂利を踏む音と、薄暗い中微かに動く影を頼りに、相手に気付いていた。肉弾戦で待ち構えている相手に勝てるはずもなく、スパイは這う這うの体で逃げ出すしかなく、すぐに捕らえられて陣内広場へと連れてこられた。 「くそっ、この悪魔め! 大人しく、連れ去られてくれれば……!」 「黙れこの狐!」 三人の軍人に抑え込まれては、さすがのスパイも手も足も出ず、ただ自分を冷ややかな双眸で見つめる無表情の男を睨み上げ、荒い息を吐く。 「そうか、俺を連れ去ろうとしたんか。こんな奥地まで一人で、ご苦労な事や」 「誰が屈するか」 スパイの男が吐きかけた唾が、トントンの靴へとついた。目の前で後ろ手を組む男は、そのような侮蔑にも眉一つ動かさない。
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