夏の終わり
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『チョコレートは何の味?』 「あの、先輩!好きです!付き合ってください!」 士官学校高等部校舎、電気の消された教室にも廊下にもまだ明かりのついている職員室にも平等にオレンジ色の優しい光が差し込んでいる時分。親友であるグルッペンを探して歩いていると、中庭の渡り廊下から、女子の緊張して上擦った声が聞こえてきた。思わず、柱に身を隠し覗き見てみると、そんな言葉をかけられているのはグルッペンだった。 「……すまない。これから、大学部の受験がある。それに集中したい。折角、勇気を振り絞って言ってくれたのにすまないな。……これは、受け取っておくよ」 「は、はい……あ、こちらこそすみません……」 「謝らなくてもいい。君も、これから忙しくなるだろうし言ってくれて嬉しかったよ」 猫なで声でやんわりと断る。あんな声と言葉だと、勘違いしてしまうかもしれないのになんで言うのだろう。そんなことを考えていると、グルッペンがその女の子と別れる。こっちに来るのを見ると、びっくりしながらも今、通りかかっただけという風に柱の影からでる。 「おぉ、トン助。まだ帰ってなかったのか?」 「うん……グルさんこそ、まだ帰らへんの?」 「いやぁ、この日になると毎度毎度、引き止められるからな……チョコもたくさんもらったから家帰ったら食べような」 「うん……」 この日とはバレンタインデーのことだ。中等部でもみんなチョコを思い思いに渡している。中には、本来、バレンタインデーは男が好きな女の子に花を渡す日だなんて言っていた男子もいたっけかなんて考える。もちろん、自分には関係ない日だ。モテないし、チョコもそんな欲しいと思ったことはない。それ以上に手作りなんて、何が入ってるか分からないじゃないか。 「教室にもあるから、一緒に取りに行こう。もう女子もいないだろう」 「……俺、校門で待っとるわ」 「つれないなぁ。もしかして、チョコ一個ももらえなくて落ち込んでいるのか?可愛いやつだな」
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