夏の終わり
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『想いの残滓』 この大陸には四季がある。ここタミアラの冬は厳しいが、美しい樹氷やキラキラと宙を舞うスターダスト、静まり返った町に降り積もる白銀と、石造りの家々の窓から漏れる暖かな灯り。高く青い空の澄み渡る空気と、肺の底まで清浄にしてくれるような空気の冷たさ。その全てがタミアラ国で見る事のできる冬の風物詩だ。 鬱は寂しくも優し気なこの風景が好きだった。彼の生まれは北方の小さな町で、そこでの生活はそこそこに幸せなものであったと自負している。 膝下まで埋まるような雪を軍靴が踏み分け、止まる事を知らぬ行軍は銀の大地を土色に染めてゆく。ミヨイ・タミアラ間の長い長い戦いは、未だ終結を見ずにいた。 軍属してから優に五年以上の年月が経っており、ここのところは忙しすぎてまともに故郷へ足も運べない。別に軍人になりたかったわけではなく、今自分がなぜこの場所に立っているかも、鬱自身もよく解っていなかった。いつもそうだ、彼はまるで流される浮草のように、刹那的な生き方をしてきた人間だからだ。最初は歩兵として銃を持たされて悪路を走らされ、重みで腰を抜かしてしまい、使い物にならないとまるで掃き溜めのゴミ扱いをされた。 次に配属になったのは補給だったが、そこでも数字が合わないなどのミスを連発し、蹴り飛ばされる毎日であった。後から考えればこれはきっと上の人間が、ひよっこの自分にミスを押し付けて良いように使っていただけだったのだが、それに気付けぬほどに神経は衰弱していた。 そして今の所属、通信と情報、そして軍の中でも機密の高い諜報へと配属された。穴埋めに入れた使えない男の、目を見張る働きぶりであった。自信を失いかけていた鬱はこの役職に就いたことで、まるで蛹が蝶に変化するように大躍進を遂げたのだ。 シュボッ、とライターから勢いよく立つオレンジの炎が、彼の咥えた煙草に命を吹き込む。鬱は煙を肺一杯に吸い込んで、今度は静かに冬のタミアラ国の空へと吹きかけた。周辺には大きな町がなく、澄んだ空には多くの星々が輝いていた。そこへ燻ぶった煙がまるでヴェールのように広がり、いつか何かの本で読んだように、ミルクの川の中へ油の粒を散りばめたようだと目を細める。 「ここに居らんかったら、今頃故郷で浮気に寛容な可愛い嫁さん貰って、隠れ家的パン屋でもやってたンやろなぁ……」
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