夏の終わり
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『九重の天を往く』 遠くから声が聞こえる。少年は薄く目を開ける。狭い路地の濡れた石畳と自分を囲む数人の男の足が目に入り、自分が地面に倒れているのだと気付く。それと同時に酸っぱく腐ったような酷い匂いがつんと鼻につく。腹を酷く殴られ、空腹で濃くなった胃液を戻したのを、ドクドクとする痛みで思い出した。震える腕でなんとか自分の体を支え四つん這いになれば、男の蹴りが下腹部に入り、そのまま崩れ落ちた。視界がまた狭くなり、うまく酸素がとり込めずに掠れた呻きが口から洩れる。 「何逃げてやがる。逃げるって事はやましい事があったんだろう」 「ただで済むとは思ってないだろうな」 たかだか十数年しか生きていない少年に、大柄な男たちは容赦しない。何故ならここは普通の土地ではなくスラムなのだ。このスラム街を仕切っているのは巨大なドラッグカルテルで、カルテルと憲兵との銃撃など日常茶飯事であった。少年はそんな世界でもう、十三年も生きてきたので、ここの掟は身に染みていた。夕飯の調達に行く途中、ほんの少しうっかりと気を抜いて周囲の確認を怠ってしまったせいで、この騒ぎに巻き込まれてしまった。 ただ偶然そこにいたから。それが今憲兵に手酷い暴力を浴びせかけられている理由だった。 「俺は、何も……」 「そんな糞の役にも立たない言い訳なんか、この場において意味をなさないからな」 ドスッと鈍い音をさせて、横っ腹を蹴り上げられる。きっと肋骨の何本かは無事では済んでいない、そんな音だった。壁まで蹴り飛ばされれば、側溝に溜まった水に顔を浸ける羽目となった。口から勝手に漏れるうめき声を耳にしながら、溜まった汚泥の中にきらりと光るものを、紫色の瞳は見逃さなかった。それから機会をジッと伺う。 「お前を連れて行く。まぁお前なんかが道中死んだところで、誰も悲しくない。むしろ食い扶持が減ってせいせいするはずだ。淀んだ空気も多少解消する」 仰向けに転げた自分の頭の上に立ち、憲兵の男がニヤリと笑う。少年は思う、何がカルテル制圧だ、何が国家権力だ。カルテルはビジネスパートナーとしてはまだ使えた。だけど本来弱い者を守るために派遣されているこいつらは、好き放題自分のサディスティックな欲望を、逆らえない相手へぶつけているだけであった。
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