夏の終わり
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ゾムが距離を取って周囲のテントへと意識をやれば、中には人の気配などはなかった。それに気付いた事を相手も悟ったのか、深紅の瞳が細められた。 「へぇ……なんかおかしい陣地やと思うとったら、そういう事なん。この陣地はフェイク、って訳なんや」 「そうだ、お前の言う通りだ。ここには少数の部隊しか残ってはいない。正直、このタイミングでの奇襲は想定外やったわ」 「にしては、まだ余裕あんねんな」 相手のあまりの落ち着きぶりに、ゾムは薄ら寒さすら感じていた。相手の薄く開いた唇から、ゆっくりと吐き出される息が殆ど乱れていない。眼光炯々たるゾムのスフェーン色の瞳と、凍り付くような視線とは裏腹の燃え盛るような色の瞳がじっと対峙する。防戦一方だったはずの男が急に動き、ゾムは瞬きも忘れてその動きに自分の命そのものである刃を合わせてゆく。不思議な感覚だった。言葉など交わさずに、互いの事をどんどんと理解していくかのような。親友であるユミトですら、ここまでのやりとりはしていない。きっと目の前の男も、自分と同類なのだ。こんな感覚は生まれて初めてであった。 地獄の訓練や実戦ですら得られたことのない不思議な感覚に包まれていた。はたして相手がどうかとまでは推し量る事はできなかったが……もっとやりあいたい、そして最後にはこの命をどちらかが奪い、喰らいつくしてしまえばいい。野生動物の雄同士の死闘のような、本能的殺しの衝動が抑えられず、あれだけ訓練で叩き込まれた不動心が今は働くこともない。この時間はあと何分続くだろう。もしかすれば数秒で終わるかもしれない。 相手の腕の表皮が切れて、熱い血が自分の左目の下へと飛ぶ。自分の肩口を相手の剣が掠めていく。これが永遠に続くなら、どれほどの幸せなのだろう。そして相手の首を取った瞬間、言い知れぬ快楽に沈められ、恍惚としてしまうのだろう。だがこの幸福な刻を引き裂いたのは、相手の薄い唇から漏れた一言であった。 「時間だ」 「何?!」 一瞬のうちに体中の血液の沸騰がおさまり、さっと冷めていくような感覚に瞋(いか)りを覚えながらも、どこかから漂うきな臭さに気付く。
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