夏の終わり
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彼女はエーミールの後ろの木へと近付いて、集まってきた昆虫を興味深そうに眺めては、彼の描いたスケッチを見比べている。その様子を見ながら心臓がドクドクと打つのを静めようと思ったが、彼女が視界に入っている間は無理そうであった。ましてや自分の半生の友である手製の図鑑を彼女が手にしているので、立ち去る事も出来ずにいた。何か話しかけよう、そう思い頭の中で色々と気の利いた言葉を考える。しかし結局出てきた言葉はこれであった。 「虫、お好きなんですか?」 目をぱちくりとさせた彼女が振り返り、そのきょとんとした顔を見て後悔した。偏差値なんて場当たり的なシーンでは何の役にも立たないと思い知らされ、エーミールは自分の吐いた稚拙な言葉を今すぐ撤回したかった。だが彼女は図鑑を閉じて胸に抱き、楽しげな声をあげて笑う。 「ええ。直接触れるのは、ちょっと勇気がないけれど」 「そ、そうですか! よかった、見かけで怖がられてしまわれるかと。自分は昔から趣味でこれを……あっ、職業はそのう、昆虫の研究者とかではなく、私は大学教授をしているエーミールと申します」 「まあっ、ごめんなさい。私自分から話しかけておきながら、名乗りもせず……マリア・ヴェルディと申します」 「マリア、さんですか」 互いにぺこりと頭を下げて、彼女が差し出してきた図鑑を受け取る。 「教授をされているのですね、まだお若いのに、立派な事」 「いえそんな、大した者でもないですが……好きが高じて、といいますか」 「うふふ、きっと大変な努力家なのでしょうね。それを好きだと言える事が羨ましくもありますわ。私は小さい頃勉強嫌いだったものですから」 決して自らを卑下しているでもなく、自分に対して媚びているわけでもなく、嘘のない素直な心で接してくる女性に、歳の甲斐なく心がざわつく。きゅうっと胸の奥が痛むような感覚を味わった。だがその感情を何とか押し殺す。見た目だけでの判断にはなるが、彼女は自分よりも一回り以上も歳下であろう。女性の年齢はあまりよく解らないが、自分が学問を教導している生徒と同じような齢であったならばと考えると、何故かは解らないがそこはかとない罪悪感に包まれた。
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