「この極寒の地で、よくぞ日々厳しさに耐え、戦線を押し上げてくれている。今後ともこのまま、どうにか頑張ってほしい。中央はまさしく激戦だ、だが、そこばかりが厚くても仕方がない。お前たちの僻地を守る力が、必要不可欠なのだ。では、食事が冷めぬうちに頂こうか」 その言葉で、皆思い思い食事をとり始めた。グルッペンは温かいスープが冷めてしまわぬうちにと美味そうにスプーンを動かし、トントンは最後まで食事に手を付けず、全員が何かを口にするまで待ってから、ようやく銀製のカトラリーを手にとった。つくづく対照的な二人だと、鬱は独り言ちた。食事が始まれば先程の凍り付いた空気も緩和し、そこかしこで談笑が始まった。食事もタミアラ北方の郷土料理であるジビエの煮込みや海産物の焼き物などが、人々の舌を愉しませる。「そうだ鬱よ、紹介が遅れたな。こっちは俺の右腕のトントンという者だ。ほら、昔話しただろう? 一緒に住んでいる親友がいると。それがコイツだ」「ヘブッ!?」 いきなりのグルッペンの告白に、鬱は飲みかけのスープを吹き出しかけた。何故なら昔彼から聞いていた話とあまりに違ったからだ。「グルちゃん確か……いやまぁ言うとったけど……」「そうだぞ、俺の後を追って、この道に入ったんだ。まさか俺の下へ配属になるとは思っていなかったが、本当に頼もしい奴なんだ」 鬱は言いかけた言葉を飲み込んで、精一杯の愛想笑いを作った。「(やってグルちゃん、“アイツは優しくて泣き虫で、自分の後をついて回っているような弟みたいな子”やって言うてたやん……どう見てもひょろ長モヤシが巨大で獰猛な猪連れて歩いてるようにしか見えへんねんけどォ!?)」「ん? どうかしたのか、変な顔して……」「アッいえ特になんも」 そんな会話をしている間、チラリと噂話の対象を見れば、彼は我関せずといった様子で行儀よく口へとフォークを運んでいる。確かにその横顔を見ていれば、物静かで温厚な男なのかもしれないとすら思えてきた。「トントン、パンくずがついているぞ」 グルッペンが彼の左手に付いたパンくずの指摘をすれば、はたと手を止めて、ありがとうと微かに笑むトントンを見て、多くの人間を見てきた鬱は彼の瞳の奥に隠された、深い優しさを感じ取った。その気の緩みが、失言を招いた。
「この極寒の地で、よくぞ日々厳しさに耐え、戦線を押し上げてくれている。今後ともこのまま、どうにか頑張ってほしい。中央はまさしく激戦だ、だが、そこばかりが厚くても仕方がない。お前たちの僻地を守る力が、必要不可欠なのだ。では、食事が冷めぬうちに頂こうか」
その言葉で、皆思い思い食事をとり始めた。グルッペンは温かいスープが冷めてしまわぬうちにと美味そうにスプーンを動かし、トントンは最後まで食事に手を付けず、全員が何かを口にするまで待ってから、ようやく銀製のカトラリーを手にとった。つくづく対照的な二人だと、鬱は独り言ちた。食事が始まれば先程の凍り付いた空気も緩和し、そこかしこで談笑が始まった。食事もタミアラ北方の郷土料理であるジビエの煮込みや海産物の焼き物などが、人々の舌を愉しませる。
「そうだ鬱よ、紹介が遅れたな。こっちは俺の右腕のトントンという者だ。ほら、昔話しただろう? 一緒に住んでいる親友がいると。それがコイツだ」
「ヘブッ!?」
いきなりのグルッペンの告白に、鬱は飲みかけのスープを吹き出しかけた。何故なら昔彼から聞いていた話とあまりに違ったからだ。
「グルちゃん確か……いやまぁ言うとったけど……」
「そうだぞ、俺の後を追って、この道に入ったんだ。まさか俺の下へ配属になるとは思っていなかったが、本当に頼もしい奴なんだ」
鬱は言いかけた言葉を飲み込んで、精一杯の愛想笑いを作った。
「(やってグルちゃん、“アイツは優しくて泣き虫で、自分の後をついて回っているような弟みたいな子”やって言うてたやん……どう見てもひょろ長モヤシが巨大で獰猛な猪連れて歩いてるようにしか見えへんねんけどォ!?)」
「ん? どうかしたのか、変な顔して……」
「アッいえ特になんも」
そんな会話をしている間、チラリと噂話の対象を見れば、彼は我関せずといった様子で行儀よく口へとフォークを運んでいる。確かにその横顔を見ていれば、物静かで温厚な男なのかもしれないとすら思えてきた。
「トントン、パンくずがついているぞ」
グルッペンが彼の左手に付いたパンくずの指摘をすれば、はたと手を止めて、ありがとうと微かに笑むトントンを見て、多くの人間を見てきた鬱は彼の瞳の奥に隠された、深い優しさを感じ取った。その気の緩みが、失言を招いた。