「お前は若いが素晴らしい戦闘能力と判断力、隠密に長ける。この部隊の一等星と言われたあのユミトを凌ぐ実力を身につけた。生け捕りにはしなくて良いと言われている。やってくれるか」「この国を、皆の幸せを、その足で踏み躙った野郎の顔を至近距離で拝めるなら、喜んで殺るで」 目深に被ったフードの下で、簡素な裸電球に色濃く作られた影の中、憎悪交じりの笑みを浮かべる。ナイフを握る手に、ぐっと力が入る。自分の熱が伝わった機能性しか持ち合わせない薄い金属に触れていると、沸騰した血液が冷却されて心の平静さを取り戻す。頭ではもう、どのように相手を殺せるかばかりを考えている。逃走経路を確保しなくてはならないと、思いを巡らせる。喜ばしい事に、目の前には一級河川が流れており、調べてみればそこそこの深さを持ち合わせている。好条件だ。「二日後にユミトが別の任務から戻ってくるが、そこまで待ってから行くか、それとも……」「いや、俺一人で行くわ。その間に相手さんが移動してもうたらチャンスを棒に振る。相手も複数の動きを見過ごすほど馬鹿やないと思う。それに」 ゾムは自分の身に纏っているパーカーの下に身に着けた暗器を見せながらニヤリと、とても十八とは思えないような達観した顔で笑って見せた。「相手に俺が暗殺者やって解るわけない。顔を見た人間は今頃全員、地獄で炎に焼かれとるんやから」 こうして一人で敵地に潜入するのも、ビクビクとしていたのは最初だけで、今ではもう我が物顔で闊歩してしまえるほどの度胸がついていた。最初の頃は殺人をするというあまりの緊張で胃液を戻し、呼吸が乱れて使い物にならないと拠点へ帰されたこともあった。今考えればそんなヤツが敵地にいれば怪しかったろうと自分でも滑稽すぎて笑いが出てしまうほどだ。一番近くの小さな町に潜伏し、支部へと身を寄せる。翌朝早くにここを発ち、明日はいよいよ師団参謀長の首を取る任務へと赴く。作戦上数名は他にもいるが、敵の大将の首を狩るのは彼らの希望の星であるゾムなのだ。この若者の肩にはそれほど多くの願いが預けられていた。仲間たちは敵地に赴くゾムの為に多くの手料理を振舞って鼓舞激励してくれた。ゾムはその料理をはぐはぐと美味しそうに平らげ、勝利と帰還を約束する。暖炉の火に照らされた全員の笑顔が、ゾムには嬉しかった。
「お前は若いが素晴らしい戦闘能力と判断力、隠密に長ける。この部隊の一等星と言われたあのユミトを凌ぐ実力を身につけた。生け捕りにはしなくて良いと言われている。やってくれるか」
「この国を、皆の幸せを、その足で踏み躙った野郎の顔を至近距離で拝めるなら、喜んで殺るで」
目深に被ったフードの下で、簡素な裸電球に色濃く作られた影の中、憎悪交じりの笑みを浮かべる。ナイフを握る手に、ぐっと力が入る。自分の熱が伝わった機能性しか持ち合わせない薄い金属に触れていると、沸騰した血液が冷却されて心の平静さを取り戻す。頭ではもう、どのように相手を殺せるかばかりを考えている。逃走経路を確保しなくてはならないと、思いを巡らせる。喜ばしい事に、目の前には一級河川が流れており、調べてみればそこそこの深さを持ち合わせている。好条件だ。
「二日後にユミトが別の任務から戻ってくるが、そこまで待ってから行くか、それとも……」
「いや、俺一人で行くわ。その間に相手さんが移動してもうたらチャンスを棒に振る。相手も複数の動きを見過ごすほど馬鹿やないと思う。それに」
ゾムは自分の身に纏っているパーカーの下に身に着けた暗器を見せながらニヤリと、とても十八とは思えないような達観した顔で笑って見せた。
「相手に俺が暗殺者やって解るわけない。顔を見た人間は今頃全員、地獄で炎に焼かれとるんやから」
こうして一人で敵地に潜入するのも、ビクビクとしていたのは最初だけで、今ではもう我が物顔で闊歩してしまえるほどの度胸がついていた。最初の頃は殺人をするというあまりの緊張で胃液を戻し、呼吸が乱れて使い物にならないと拠点へ帰されたこともあった。今考えればそんなヤツが敵地にいれば怪しかったろうと自分でも滑稽すぎて笑いが出てしまうほどだ。一番近くの小さな町に潜伏し、支部へと身を寄せる。翌朝早くにここを発ち、明日はいよいよ師団参謀長の首を取る任務へと赴く。作戦上数名は他にもいるが、敵の大将の首を狩るのは彼らの希望の星であるゾムなのだ。この若者の肩にはそれほど多くの願いが預けられていた。仲間たちは敵地に赴くゾムの為に多くの手料理を振舞って鼓舞激励してくれた。ゾムはその料理をはぐはぐと美味しそうに平らげ、勝利と帰還を約束する。暖炉の火に照らされた全員の笑顔が、ゾムには嬉しかった。