恐る恐る聞いてみれば、彼はパーフェクトなキ●ガイスマイルを固定したまま頷いた。一応彼には壊滅的な肉体的なダメージ(何を指すのかは自重する)は無いようで、そこには安心した。しかし堅物で童の帝王と名高い彼の精神が半壊しているのは、聡明なオスマンでなくても理解に難しくない。そんな半壊した精神状態の彼は何故自分を起こしに来たのだろう。この時間なら彼はいつも皆のためにご飯を作っている。それを思い出したオスマンはぽんと手を打った。「もしかして、まだ本調子じゃないから、朝食作りの手伝いが欲しかったんやな。ええで、遠慮せんでも、勿論喜んで手伝……」「オスマン」 低い声で名を呼ばれる。ひぃっと肩をびくつかせ、影の濃くなった彼の笑顔を見れば、眼鏡越しに見えるその瞳にはまるで消えることのない冥府の門燈の様な炎が宿っている。「やるで、家事ストライキ」「めっ、めうぅ……は?」 “家事ストライキ”……これまた微妙なネーミングである。しかしどうやら提案者であるトントンは、本気も本気だ。「つまり……ご飯も作らない、掃除も洗濯も放棄するってこと?」「せやで。正直昨日の仕打ち、どう思う? 何で皆のご飯を作った俺たちが、あんな目に合わなあかんねん。こっちは皆に美味しく食べてほしいから、毎日朝から頑張ってんねんで。もっと労って貰えて然るべきちゃうん?」 あ、これはアレだ、家事をしない夫を持った専業主婦……いや、彼は専業“主夫”か……の不満が爆発したヤツだ。オスマンは半目を開けて生暖かい笑みを浮かべるしかなかった。だが言われてみれば本当にそうである。例えばコネシマ。彼は夕食ができるまでの間、部屋にこもって昼寝をしている。ゾムはまだ現役の軍人だから多少は大目に見るとしても、一度手伝わせたところ多量の食材を調理してしまい、消費が追い付かずに苦しんだことがあった。シャオロンはといえば、包丁の握り方は危なっかしいし、火を使わせれば何故かリキュールを使ってもいないのにフランベ状態。本人にやる気があっても任せられはしない。 これはトントンがぶち切れてもおかしくないなぁ、と半笑いで哀れみを込めた視線を彼へとむける。そう、彼はどうやら家事を手伝える自分も、このストライキに参加させる気であった。今日はこの屋敷に嵐が吹き荒れるだろう。
恐る恐る聞いてみれば、彼はパーフェクトなキ●ガイスマイルを固定したまま頷いた。一応彼には壊滅的な肉体的なダメージ(何を指すのかは自重する)は無いようで、そこには安心した。しかし堅物で童の帝王と名高い彼の精神が半壊しているのは、聡明なオスマンでなくても理解に難しくない。そんな半壊した精神状態の彼は何故自分を起こしに来たのだろう。この時間なら彼はいつも皆のためにご飯を作っている。それを思い出したオスマンはぽんと手を打った。
「もしかして、まだ本調子じゃないから、朝食作りの手伝いが欲しかったんやな。ええで、遠慮せんでも、勿論喜んで手伝……」
「オスマン」
低い声で名を呼ばれる。ひぃっと肩をびくつかせ、影の濃くなった彼の笑顔を見れば、眼鏡越しに見えるその瞳にはまるで消えることのない冥府の門燈の様な炎が宿っている。
「やるで、家事ストライキ」
「めっ、めうぅ……は?」
“家事ストライキ”……これまた微妙なネーミングである。しかしどうやら提案者であるトントンは、本気も本気だ。
「つまり……ご飯も作らない、掃除も洗濯も放棄するってこと?」
「せやで。正直昨日の仕打ち、どう思う? 何で皆のご飯を作った俺たちが、あんな目に合わなあかんねん。こっちは皆に美味しく食べてほしいから、毎日朝から頑張ってんねんで。もっと労って貰えて然るべきちゃうん?」
あ、これはアレだ、家事をしない夫を持った専業主婦……いや、彼は専業“主夫”か……の不満が爆発したヤツだ。オスマンは半目を開けて生暖かい笑みを浮かべるしかなかった。だが言われてみれば本当にそうである。例えばコネシマ。彼は夕食ができるまでの間、部屋にこもって昼寝をしている。ゾムはまだ現役の軍人だから多少は大目に見るとしても、一度手伝わせたところ多量の食材を調理してしまい、消費が追い付かずに苦しんだことがあった。シャオロンはといえば、包丁の握り方は危なっかしいし、火を使わせれば何故かリキュールを使ってもいないのにフランベ状態。本人にやる気があっても任せられはしない。
これはトントンがぶち切れてもおかしくないなぁ、と半笑いで哀れみを込めた視線を彼へとむける。そう、彼はどうやら家事を手伝える自分も、このストライキに参加させる気であった。今日はこの屋敷に嵐が吹き荒れるだろう。