彼の前を通って玄関を抜け、マントを脱いでから彼の顔を見た。グルッペンの灰色の瞳と、自分の赤い虹彩が交わる。「いいえ、あそこへはもう、帰る事はないですから」「そうか。ところで何か土産はないのか?」 マントの下に隠した手を、目敏い彼は見逃していなかったようだ。それもそのはず、玄関には隠しきれぬ芳純な香りが広がっている。トントンはそんな彼に微笑みかけ、彼に土産を差し出した。「花屋に寄ったんですよ。そこで手に入れました。いい香りでしょう」「ラベンダーか、この辺では見ないな。ああ、いい香りだ」 トントンの手に握られていたのは、ラベンダーのミニブーケ。鮮やかな青紫が、甘く心安らぐ香りを際立たせる。「ありがとう、さっそく部屋に飾らせてもらおう」「グルさん、ラベンダーの花言葉を知っていますか?」 唐突に聞かれ、グルッペンは首を傾げた。自分は花にはあまり興味がなく、可憐だとは思うが自分で育てたことはない。もちろん花言葉など知らず、戦略や有名な武将の名言の方が頭に入っているぐらいだ。「いや、知らないな。トン氏は知っているのか?」「ええ、花を買った時に、聞いたんです」「ほう、折角だから教えてもらおうか」 トントンはにこりと笑んでその花言葉を口にした。完
彼の前を通って玄関を抜け、マントを脱いでから彼の顔を見た。グルッペンの灰色の瞳と、自分の赤い虹彩が交わる。
「いいえ、あそこへはもう、帰る事はないですから」
「そうか。ところで何か土産はないのか?」
マントの下に隠した手を、目敏い彼は見逃していなかったようだ。それもそのはず、玄関には隠しきれぬ芳純な香りが広がっている。トントンはそんな彼に微笑みかけ、彼に土産を差し出した。
「花屋に寄ったんですよ。そこで手に入れました。いい香りでしょう」
「ラベンダーか、この辺では見ないな。ああ、いい香りだ」
トントンの手に握られていたのは、ラベンダーのミニブーケ。鮮やかな青紫が、甘く心安らぐ香りを際立たせる。
「ありがとう、さっそく部屋に飾らせてもらおう」
「グルさん、ラベンダーの花言葉を知っていますか?」
唐突に聞かれ、グルッペンは首を傾げた。自分は花にはあまり興味がなく、可憐だとは思うが自分で育てたことはない。もちろん花言葉など知らず、戦略や有名な武将の名言の方が頭に入っているぐらいだ。
「いや、知らないな。トン氏は知っているのか?」
「ええ、花を買った時に、聞いたんです」
「ほう、折角だから教えてもらおうか」
トントンはにこりと笑んでその花言葉を口にした。
完