「ごめん、ホンマ、ごめん。俺が間に合わなかったからや、今度はうまくやるから、どうかもう一度自分にチャンスを――――」 ポツリ、と、ゾムの頬に何か熱いものが落ちる。覚えのある熱さにびくりとして、足を止める。頬に触れると、ぬるりとした生温かな感触が指に残った。見なくても解る、これは血だ。ゾムはその血が落ちてきた方へと首を向ける。天上を見上げれば、闇の隙間から親友の亡骸が吊ってあった。彼のだらりと伸ばされた力のない腕を伝って、赤い雫がゾムへと降りかかっている。ゾムは叫ぶ。体を強張らせ、震えながら。「うあぁあぁぁあああっ!!」 跳ね起きれば、グルッペンの屋敷のベッド上。喉が裂けようと関係ないとばかりに力ずくで叫んだせいで、咽頭がひりひりと炎症を起こしている。毎晩のように、ゾムはこの夢にうなされている。幽世の四層“砒界”で、悪霊化した親友を見てからほとんど毎晩だ。実はというと軍の方からも、個人的にカウンセリングが行われてしまった。共同部屋の寝心地最悪な堅いベッドであろうと、あの夢は自分の内部から毎晩襲い掛かってくる。袖でぐしぐしと涙を拭き、膝に頭を押し付けて毛布をぐっと握った。 いつかは決着をつけなくてはならないのだが、どのようにつけたらいいのだろうか。解決の糸口が見えないこの状況が、ゾムにとっては想像を絶するストレスだった。時計を見ればまだ午前三時前で、もうひと眠りしたかったが、再び寝て覚めるまでの間にあの夢を見てしまうのが怖かった。だが、体を休めねば任務に支障が出る可能性もある……ゾムはせめて横になって目を閉じていようと、再び毛布を手繰り寄せて横になる。 ……どのぐらい経っただろうか。 どこか遠くから、轟々たる唸り声が聞こえた気がして、ゾムは目を開けた。どうやらいつの間にか浅い眠りに入っていたらしい。意識がはっきりしてくると、その唸り声が夢の狭間にあるものではなく、現実だと脳が認識してくる。それを理解した瞬間、ゾムは跳ね起きた。「イフリート!」 急いで靴を履きナイフをベルトへ下げて、二階の窓から外へと飛び降りる。唸り声が咆哮へと変わり、ハッキリとした方角が解るとゾムは青ざめた。その方向には、畜舎があったから。「あぁっ……嘘やろ!?」
「ごめん、ホンマ、ごめん。俺が間に合わなかったからや、今度はうまくやるから、どうかもう一度自分にチャンスを――――」
ポツリ、と、ゾムの頬に何か熱いものが落ちる。覚えのある熱さにびくりとして、足を止める。頬に触れると、ぬるりとした生温かな感触が指に残った。見なくても解る、これは血だ。ゾムはその血が落ちてきた方へと首を向ける。天上を見上げれば、闇の隙間から親友の亡骸が吊ってあった。彼のだらりと伸ばされた力のない腕を伝って、赤い雫がゾムへと降りかかっている。ゾムは叫ぶ。体を強張らせ、震えながら。
「うあぁあぁぁあああっ!!」
跳ね起きれば、グルッペンの屋敷のベッド上。喉が裂けようと関係ないとばかりに力ずくで叫んだせいで、咽頭がひりひりと炎症を起こしている。毎晩のように、ゾムはこの夢にうなされている。幽世の四層“砒界”で、悪霊化した親友を見てからほとんど毎晩だ。実はというと軍の方からも、個人的にカウンセリングが行われてしまった。共同部屋の寝心地最悪な堅いベッドであろうと、あの夢は自分の内部から毎晩襲い掛かってくる。袖でぐしぐしと涙を拭き、膝に頭を押し付けて毛布をぐっと握った。
いつかは決着をつけなくてはならないのだが、どのようにつけたらいいのだろうか。解決の糸口が見えないこの状況が、ゾムにとっては想像を絶するストレスだった。時計を見ればまだ午前三時前で、もうひと眠りしたかったが、再び寝て覚めるまでの間にあの夢を見てしまうのが怖かった。だが、体を休めねば任務に支障が出る可能性もある……ゾムはせめて横になって目を閉じていようと、再び毛布を手繰り寄せて横になる。
……どのぐらい経っただろうか。
どこか遠くから、轟々たる唸り声が聞こえた気がして、ゾムは目を開けた。どうやらいつの間にか浅い眠りに入っていたらしい。意識がはっきりしてくると、その唸り声が夢の狭間にあるものではなく、現実だと脳が認識してくる。それを理解した瞬間、ゾムは跳ね起きた。
「イフリート!」
急いで靴を履きナイフをベルトへ下げて、二階の窓から外へと飛び降りる。唸り声が咆哮へと変わり、ハッキリとした方角が解るとゾムは青ざめた。その方向には、畜舎があったから。
「あぁっ……嘘やろ!?」