少年の肩に脚がかけられ、そのまま脚を伸ばした勢いで少年は地面へと転がされた。しかし彼は顔を歪めただけで声はあげなかった。止めてくれと言って止めてくれるのなら、いくらでも声を上げただろうが、そう言ったところで更に彼らの加虐心に火をつける事になるだろう。「うわぁっ、何だこれ、鶏ィ?」 一人が鶏の脚を掴み、まだ半分ほど羽根の付いたままのそれを持ち上げた。「返してや、うちの鶏やで」「返せって? こんな気持ちの悪いものがそんなに大事か? まだ他にもいっぱいいるんだろ」「こんなキモいもん、捨ててやろうぜ」 それを聞いて、トントンは鶏をどこかへ持って行こうとする上級生に、後ろから体当たりした。突然の事に情けない声をあげてその上級生は地面へと頭から突っ込んだ。鶏は衝撃で手からはなれ、落ち葉だらけの枯草の中へと落ちた。その鶏を取り返そうと、トントンは転んだ人間などには目もくれずにそちらへ走る。もしもこれを盗られてしまったら、上級生の仕返しよりも辛い仕打ちが、家庭という密室で待っている。親から怒りと憎しみに満ちた目を向けられるのは、子供にとって恐怖そのものであった。 もう少しで鶏に手が届くというその瞬間、まるでアメフトのボールのように、その鶏が宙を舞った。「こうしてやる!!」「あっ……!」 もう一人の上級生が、もう羽ばたかない哀れな畜生を、空高く蹴り上げた。それはゆったりとした放物線を描き、ボトリと橋の上へと落ち、転がって数メートル下の大きな川の流れへと飲み込まれた。トントンは真っ青になって、橋へと駆けた。「ッ……嘘やろ?」 石橋の上から水面を覗く。だが数日前の嵐のせいで川は水量を増やしており、轟々とうねる濁流は普段の透き通った水とは違い、まるで別の川のような様相であった。呆然と立ち尽くしていると、自分の来た方角から先程体当たりをして転ばせた上級生が、真っ赤な顔をして迫ってくるのが見えた。身構えたが体格が違いすぎるため、そのまま拳が自分の頬へと、腹へとめり込む。耳鳴りで遠くなった聴覚がなんとか捉えた言葉が飛び込んでくる。
少年の肩に脚がかけられ、そのまま脚を伸ばした勢いで少年は地面へと転がされた。しかし彼は顔を歪めただけで声はあげなかった。止めてくれと言って止めてくれるのなら、いくらでも声を上げただろうが、そう言ったところで更に彼らの加虐心に火をつける事になるだろう。
「うわぁっ、何だこれ、鶏ィ?」
一人が鶏の脚を掴み、まだ半分ほど羽根の付いたままのそれを持ち上げた。
「返してや、うちの鶏やで」
「返せって? こんな気持ちの悪いものがそんなに大事か? まだ他にもいっぱいいるんだろ」
「こんなキモいもん、捨ててやろうぜ」
それを聞いて、トントンは鶏をどこかへ持って行こうとする上級生に、後ろから体当たりした。突然の事に情けない声をあげてその上級生は地面へと頭から突っ込んだ。鶏は衝撃で手からはなれ、落ち葉だらけの枯草の中へと落ちた。その鶏を取り返そうと、トントンは転んだ人間などには目もくれずにそちらへ走る。もしもこれを盗られてしまったら、上級生の仕返しよりも辛い仕打ちが、家庭という密室で待っている。親から怒りと憎しみに満ちた目を向けられるのは、子供にとって恐怖そのものであった。
もう少しで鶏に手が届くというその瞬間、まるでアメフトのボールのように、その鶏が宙を舞った。
「こうしてやる!!」
「あっ……!」
もう一人の上級生が、もう羽ばたかない哀れな畜生を、空高く蹴り上げた。それはゆったりとした放物線を描き、ボトリと橋の上へと落ち、転がって数メートル下の大きな川の流れへと飲み込まれた。トントンは真っ青になって、橋へと駆けた。
「ッ……嘘やろ?」
石橋の上から水面を覗く。だが数日前の嵐のせいで川は水量を増やしており、轟々とうねる濁流は普段の透き通った水とは違い、まるで別の川のような様相であった。呆然と立ち尽くしていると、自分の来た方角から先程体当たりをして転ばせた上級生が、真っ赤な顔をして迫ってくるのが見えた。身構えたが体格が違いすぎるため、そのまま拳が自分の頬へと、腹へとめり込む。耳鳴りで遠くなった聴覚がなんとか捉えた言葉が飛び込んでくる。