「あ、遊ぶ? あの、俺と?」 車が動き出し、慣れない揺れとグルッペンとの距離の近さに困惑する。彼の灰色の澄んだ瞳があまりにも真っすぐ自分をとらえてきて、心臓が鼓動を早める。「トントン君、詳しい事は後で伝えるが、君は今日からうちに住めるように手配した。もちろんご両親にも、話はつけてある」「え、な、何で」「養子、という訳ではないが、君を援助したい。勿論君の意思で決めていい。戻りたい時は、いつでも言ってくれていい。望みの学校へも行かせてあげられる。どうだい、いい話だろう。あぁ、子供が何も気に病むことはない、君がどうしたいのかを、聞かせてくれればいい。あの時のように、嘘は吐くんじゃないぞ」 病院のベッドの上で、首を横に振ったのを嘘だったと見抜かれており、トントンは惨めな気持ちになった。だが、これはきっと、自分があの場所から逃げ出すためのラストチャンスだ。悩んだ末にトントンが口を開こうとすると、隣にいたグルッペンがトントンの肩に自分の腕を乗せ、力強く自分へ寄せた。「嫌なんて言うはずないだろ! こいつは俺の親友になるんやから。なぁ、トントン」「……うん」「今うんって言うたな?! 絶対やぞ、約束な!」 そんな風にキラキラとした笑顔を見せるグルッペンが、あまりにも実直で、あまりにも眩しかった。「父上、屋敷の前の丘んところで止めてほしい」「ああ、夕飯までには帰ってくるんだ」 グルッペンは父に頼んで、もう屋敷の見える丘の上で車を停めさせた。「トン助、ついて来い」 トントンはグルッペンに言われるがまま、車を降りた。車はグルッペンの父母を乗せ、先に屋敷へと戻る。 グルッペンと一緒に空を見上げて、息をのんだ。宵の明星が煌めく空一面は、まるで燃えるように夕日に焼かれていた。空一面に細かい鱗のような模様の雲が出て、その雲も真っ赤に染め上げられている。二人は丘の上の草原に並んで座る。「あれは鰯雲だぞ」「いわし?」「鰯、知ってるか? 海にいる、群れを作って泳ぐ魚だ」「雲なのに、いわしなんだ」 それを聞くとグルッペンは、ちょっとトントンの顔を見てから、アッハッハッハと大声で笑い始めた。
「あ、遊ぶ? あの、俺と?」
車が動き出し、慣れない揺れとグルッペンとの距離の近さに困惑する。彼の灰色の澄んだ瞳があまりにも真っすぐ自分をとらえてきて、心臓が鼓動を早める。
「トントン君、詳しい事は後で伝えるが、君は今日からうちに住めるように手配した。もちろんご両親にも、話はつけてある」
「え、な、何で」
「養子、という訳ではないが、君を援助したい。勿論君の意思で決めていい。戻りたい時は、いつでも言ってくれていい。望みの学校へも行かせてあげられる。どうだい、いい話だろう。あぁ、子供が何も気に病むことはない、君がどうしたいのかを、聞かせてくれればいい。あの時のように、嘘は吐くんじゃないぞ」
病院のベッドの上で、首を横に振ったのを嘘だったと見抜かれており、トントンは惨めな気持ちになった。だが、これはきっと、自分があの場所から逃げ出すためのラストチャンスだ。悩んだ末にトントンが口を開こうとすると、隣にいたグルッペンがトントンの肩に自分の腕を乗せ、力強く自分へ寄せた。
「嫌なんて言うはずないだろ! こいつは俺の親友になるんやから。なぁ、トントン」
「……うん」
「今うんって言うたな?! 絶対やぞ、約束な!」
そんな風にキラキラとした笑顔を見せるグルッペンが、あまりにも実直で、あまりにも眩しかった。
「父上、屋敷の前の丘んところで止めてほしい」
「ああ、夕飯までには帰ってくるんだ」
グルッペンは父に頼んで、もう屋敷の見える丘の上で車を停めさせた。
「トン助、ついて来い」
トントンはグルッペンに言われるがまま、車を降りた。車はグルッペンの父母を乗せ、先に屋敷へと戻る。
グルッペンと一緒に空を見上げて、息をのんだ。宵の明星が煌めく空一面は、まるで燃えるように夕日に焼かれていた。空一面に細かい鱗のような模様の雲が出て、その雲も真っ赤に染め上げられている。二人は丘の上の草原に並んで座る。
「あれは鰯雲だぞ」
「いわし?」
「鰯、知ってるか? 海にいる、群れを作って泳ぐ魚だ」
「雲なのに、いわしなんだ」
それを聞くとグルッペンは、ちょっとトントンの顔を見てから、アッハッハッハと大声で笑い始めた。