「ホンマに助かる。最近ミヨイクニの軍人の流れが、活発になってきたと情報が入った。ロボロとゾムが残党や偵察兵を警戒してくれとるが、地形的に攻められやすい場所はなるべく押さえておきたいから」 ショッピはトントンの“助かる”という言葉に少し心の奥がくすぐったくなり、しかしそれを露骨に表には出さないようにと咳ばらいをする。 「そうですね、パッと見た感じ幾つか問題点があって……あそこのあたりは、敵があの下に貼りついたらこちらからの侵攻は難しくなります」「せやな、確かに死角が多い。っと、ミヨイクニの師団か……」 馬を止め、眼前を行く軍人たちに目を向ける。見覚えのある師団徽章……それは元々自分の率いていた師団であり、トントンは息をのんだ。そのトントンの様子の変化に、ショッピはすぐに気付き、振り返って信頼する友を心配そうに見上げる。フードを覗き込むように彼の顔を見れば、目の前を行く軍隊から目が離せなくなっているようであった。まずい、と彼は眉を顰める。その様に注視しては向こうからも注目される可能性があったからだ。グルッペンから、トントンがタミアラ国の小隊に襲われた事を聞いていたショッピは、未だ遠き故郷を眺める様な赤い瞳から目をそらして、強く馬の腹を蹴った。馬は命令に忠実に動き出し、その場から離れる事ができた安堵で、聞こえない程度にため息を吐く。「ッあ……と」「あれは駄目ですよトントンさん。あれ以上あそこにいて、誰何(すいか)でもされてたらどうするんですか。纏っているのがその軍服じゃ身元が割れますよ」「ご、ごめん……」 トントンはもう一度振り返ろうとしたが、苦言を呈してくれたショッピの手前それはできず、ぐっと自分の心を抑え込んだ。まだ自分にこんな未練があるとは思ってもいなかったのだが、自覚してしまっては、もうその郷愁の想いをかき消すことも難しく、心に重くのしかかってくる。彼にそんな気はあってもなくても、ショッピの表情が呆れたような、冷ややかなようなものに感じられ、ちりちりと胸が痛む。屋敷にたどり着いた時には、曇天からちらりちらりと白い泡雪が舞い降りてきていた。「寒いめう……」「せやな……本格的に雪降ってくるんちゃうか」
「ホンマに助かる。最近ミヨイクニの軍人の流れが、活発になってきたと情報が入った。ロボロとゾムが残党や偵察兵を警戒してくれとるが、地形的に攻められやすい場所はなるべく押さえておきたいから」
ショッピはトントンの“助かる”という言葉に少し心の奥がくすぐったくなり、しかしそれを露骨に表には出さないようにと咳ばらいをする。
「そうですね、パッと見た感じ幾つか問題点があって……あそこのあたりは、敵があの下に貼りついたらこちらからの侵攻は難しくなります」
「せやな、確かに死角が多い。っと、ミヨイクニの師団か……」
馬を止め、眼前を行く軍人たちに目を向ける。見覚えのある師団徽章……それは元々自分の率いていた師団であり、トントンは息をのんだ。そのトントンの様子の変化に、ショッピはすぐに気付き、振り返って信頼する友を心配そうに見上げる。フードを覗き込むように彼の顔を見れば、目の前を行く軍隊から目が離せなくなっているようであった。まずい、と彼は眉を顰める。その様に注視しては向こうからも注目される可能性があったからだ。グルッペンから、トントンがタミアラ国の小隊に襲われた事を聞いていたショッピは、未だ遠き故郷を眺める様な赤い瞳から目をそらして、強く馬の腹を蹴った。馬は命令に忠実に動き出し、その場から離れる事ができた安堵で、聞こえない程度にため息を吐く。
「ッあ……と」
「あれは駄目ですよトントンさん。あれ以上あそこにいて、誰何(すいか)でもされてたらどうするんですか。纏っているのがその軍服じゃ身元が割れますよ」
「ご、ごめん……」
トントンはもう一度振り返ろうとしたが、苦言を呈してくれたショッピの手前それはできず、ぐっと自分の心を抑え込んだ。まだ自分にこんな未練があるとは思ってもいなかったのだが、自覚してしまっては、もうその郷愁の想いをかき消すことも難しく、心に重くのしかかってくる。彼にそんな気はあってもなくても、ショッピの表情が呆れたような、冷ややかなようなものに感じられ、ちりちりと胸が痛む。屋敷にたどり着いた時には、曇天からちらりちらりと白い泡雪が舞い降りてきていた。
「寒いめう……」
「せやな……本格的に雪降ってくるんちゃうか」