共に歩んでいた兵の何人かがその惨状に吐き気を催し、膝に手をついては苦し気な声をあげている。そんな中自ら先陣を切る師団参謀長は、味方が悶えていても止まろうともせず馬上から遠くを見渡し進んでゆく。その背中を見ながら、同じミヨイクニの軍勢である彼らは、血の通わないその男に対して、畏怖と猜疑心に満ち満ちた目を向けている。そんな彼が、急に歩みを止めた。 一台の戦車の影に凭れる形で、数人の男たちの朽ち果てた様が見て取れた。黒い軍服はズタボロで、多くの銃弾に貫かれ、おまけに隻腕となっていた。どう見ても、すでに死んでいる。項垂れた頭は砂まみれのアッシュブロンドであり見覚えがあった。階級章を見れば、やはり彼だと確信できた。「タミアラ国のグルッペン・フューラー少将だ!」 兵たちは浮足立つ。この戦で少将を討ち取ったとあれば、昇級は間違いない。気分の悪そうだった者も構わず一斉に駆け出し、手柄を物にしようと我先にその戦車の方へと向かう。しかし、その目の前に、馬上から鈍い銀色の剣が振り下ろされた。ひっ、と声が上がり、全体が急停止する。「外せ」「……は?」「外せと言っている。俺がこの手で確認する」「っ、しかし、……!」 振り返ったトントンの、あまりの殺気と形相に、男たちは震えあがった。逆らっては殺されると誰もが瞬時に理解できる程のものであった。結局師団参謀の男一人を残し、部隊は拠点へと戻る事となった。彼らが去った後、馬を降り、ゆっくりゆっくりとその戦車へ凭れ掛かる者へと近付く。「ッハ……う……」 一定の距離まで来た時、その平静さが失われ、縺れる足を前へと出しながら、駆ける。側に寄り、その痩せた体躯の前へ汚れるのも構わず膝をつく。全身が震え、冷や汗をかき、吐き出す息の熱さに喉が渇く。
共に歩んでいた兵の何人かがその惨状に吐き気を催し、膝に手をついては苦し気な声をあげている。そんな中自ら先陣を切る師団参謀長は、味方が悶えていても止まろうともせず馬上から遠くを見渡し進んでゆく。その背中を見ながら、同じミヨイクニの軍勢である彼らは、血の通わないその男に対して、畏怖と猜疑心に満ち満ちた目を向けている。そんな彼が、急に歩みを止めた。
一台の戦車の影に凭れる形で、数人の男たちの朽ち果てた様が見て取れた。黒い軍服はズタボロで、多くの銃弾に貫かれ、おまけに隻腕となっていた。どう見ても、すでに死んでいる。項垂れた頭は砂まみれのアッシュブロンドであり見覚えがあった。階級章を見れば、やはり彼だと確信できた。
「タミアラ国のグルッペン・フューラー少将だ!」
兵たちは浮足立つ。この戦で少将を討ち取ったとあれば、昇級は間違いない。気分の悪そうだった者も構わず一斉に駆け出し、手柄を物にしようと我先にその戦車の方へと向かう。しかし、その目の前に、馬上から鈍い銀色の剣が振り下ろされた。ひっ、と声が上がり、全体が急停止する。
「外せ」
「……は?」
「外せと言っている。俺がこの手で確認する」
「っ、しかし、……!」
振り返ったトントンの、あまりの殺気と形相に、男たちは震えあがった。逆らっては殺されると誰もが瞬時に理解できる程のものであった。結局師団参謀の男一人を残し、部隊は拠点へと戻る事となった。彼らが去った後、馬を降り、ゆっくりゆっくりとその戦車へ凭れ掛かる者へと近付く。
「ッハ……う……」
一定の距離まで来た時、その平静さが失われ、縺れる足を前へと出しながら、駆ける。側に寄り、その痩せた体躯の前へ汚れるのも構わず膝をつく。全身が震え、冷や汗をかき、吐き出す息の熱さに喉が渇く。