「ごめん」「ん」 一言謝罪を口にすれば、ユミトはそれでいいよと背を撫でてくれた。「次はどんな任務でも、絶対に俺に言ってから行けよ。お前、一人で逝ったら、許さないからな。本当に心配した」「うん、そうする」「ならよし。殴ってごめんな、痛かっただろ」 ユミトは体を離すと、ゾムの赤くなった左頬を見て鼻をすする。彼の目は赤くなっていた。それを見てゾムの目にも熱いものがこみ上げる。奇跡の子だ、神の祝福だと言われるよりも、何百倍も嬉しいストレートな行動と言葉をくれた親友がいてくれることが、生きて帰った一番の収穫であった。「これやるよ、お前に」「えっ? あ、これ……」 ユミトが自分の胸元にかけていたものを取り出す。それを自分の首から外して、ゾムの首へとかけてやる。それは木彫りの十字のお守りで、真ん中には大きな星型正七角形が彫られている。これはコハブの血族の証でもある、聖なる象徴だ。「お前がどこへ行っても無事に戻ってくるようにって、急いで作ったんだ……細工は初めてだったから、あんまり上手くいかなかったけど」 ゾムは右手でその木彫りの十字を掌へ乗せてしばらく見つめ、きゅっと握りしめた。金属よりも温かみのある素材は、親友の温もりがまだ残っていた。堪えていた熱が溢れ、ポロポロと大粒の涙が止めどなく零れた。「ええん? 俺なんかにこんな……嬉しい」「あたりまえだろ、お前は俺の、かけがえのないたった一人の親友なんだから」 それを聞いてゾムは飛び切りの笑顔を見せる。彼がいてくれるなら、この先何が起こっても怖くはない。互いの想いが互いの生を力強く肯定する。そう、自分たちはいつも幼い頃から兄弟の狼の様に野を駆け回っていた。体の大きくなった今だってそうだ。自分が想っている以上に、相手に自分が想われる事がこんなにも心地よいとは。これからだってずっと、肩を並べて駆け抜けられるだろう。それがたとえ、黒煙の絶えぬ戦場だったとしても。完
「ごめん」
「ん」
一言謝罪を口にすれば、ユミトはそれでいいよと背を撫でてくれた。
「次はどんな任務でも、絶対に俺に言ってから行けよ。お前、一人で逝ったら、許さないからな。本当に心配した」
「うん、そうする」
「ならよし。殴ってごめんな、痛かっただろ」
ユミトは体を離すと、ゾムの赤くなった左頬を見て鼻をすする。彼の目は赤くなっていた。それを見てゾムの目にも熱いものがこみ上げる。奇跡の子だ、神の祝福だと言われるよりも、何百倍も嬉しいストレートな行動と言葉をくれた親友がいてくれることが、生きて帰った一番の収穫であった。
「これやるよ、お前に」
「えっ? あ、これ……」
ユミトが自分の胸元にかけていたものを取り出す。それを自分の首から外して、ゾムの首へとかけてやる。それは木彫りの十字のお守りで、真ん中には大きな星型正七角形が彫られている。これはコハブの血族の証でもある、聖なる象徴だ。
「お前がどこへ行っても無事に戻ってくるようにって、急いで作ったんだ……細工は初めてだったから、あんまり上手くいかなかったけど」
ゾムは右手でその木彫りの十字を掌へ乗せてしばらく見つめ、きゅっと握りしめた。金属よりも温かみのある素材は、親友の温もりがまだ残っていた。堪えていた熱が溢れ、ポロポロと大粒の涙が止めどなく零れた。
「ええん? 俺なんかにこんな……嬉しい」
「あたりまえだろ、お前は俺の、かけがえのないたった一人の親友なんだから」
それを聞いてゾムは飛び切りの笑顔を見せる。彼がいてくれるなら、この先何が起こっても怖くはない。互いの想いが互いの生を力強く肯定する。そう、自分たちはいつも幼い頃から兄弟の狼の様に野を駆け回っていた。体の大きくなった今だってそうだ。自分が想っている以上に、相手に自分が想われる事がこんなにも心地よいとは。これからだってずっと、肩を並べて駆け抜けられるだろう。それがたとえ、黒煙の絶えぬ戦場だったとしても。
完